バレーボールゲームにおけるセッターに関する研究

目的
同チームが起用した3名のセッターを対象として、ゲームにおけるトスおよびトスワークの比較を行うことにより、優れたセッターの条件を導き出し資料を得ること。
方法
対象
NK短期大学女子バレーボールチームのセッター3名
過去の経歴 | 大会の結果 | 評価 | |
Y.N(1年) 162cm | セッター歴 3年9ヶ月 国体出場、全国高校総体出場、全日本ジュニア候補合宿参加 | 春季リーグ優勝 7勝0敗 | A |
T.Y(2年) 168cm | セッター歴 4年3ヶ月 全国高校選抜大会・全国高校総体出場 | 西日本インカレ3位 3勝1敗 | C |
T.T(2年) 167cm | セッター歴 4ヶ月 全国総体にセンターとして出場。短大2年時からセッターに転向 | 秋季リーグ2位 6勝1敗 | B |
調査項目
①ジャンプトスとスタンディングトスの内訳について
返球状況に応じて以下の分類を行った。
AR:セッターがほぼ定位置でコンビネーション攻撃を行うことができる返球
BR:セッターが定位置から移動するがコンビネーション攻撃を行うことが可能な返球
CR:セッターがトスをあげるが明らかに 2 段トス攻撃し か行うことができない返球
②セッターのトスワークについて
セッターのツーを除く全ての攻撃を以下ように分類した。
速攻:A・B・Cクイック・一人時間差攻撃
ブロード攻撃:センターからライト方向へ女装して片足踏切によるスパイク
時間差攻撃:速攻をおとりにして行うセッターの前・後とライトの早いトスを含む攻撃
オープン攻撃:ライト側の速いトスの攻撃は時間差攻撃と捉えたためレフト側のアンテナ付近からの攻撃とバックアタック
③トスの結果について
以下の評価基準にしたがって、トスの結果を集計した。
AT:アタッカーが良い状態で攻撃できるトス
BT:アタッカーが良い状態ではないが強打攻撃は可能なトス
CT:攻撃が不可能で相手に返球するだけのトス及びトスミス
結果
①ジャンプトスとスタンディングトスの内訳について
各セッターのARとBRのトスの内訳を比較してみると、Y.N. は12.16%、T.Y. は25.21%、T.T は31.16%それぞれBRにおけるジャンプトスの割合がARと比較して低いという結果であった。これらのこととセッターの評価を関連して考えると、評価の高い順にセッターの全体のトスに占めるジャンプトスの割合が高いという結果であった。
このことから、セッターの定位置だけではなく、移動した場合にもジャンプトスをあげれることが優れたセッターの条件の一つであることが明らかになった。
②セッターのトスワークについて
各セッターのトスワークをSRからの攻撃とラリー中の攻撃を比較した場合、Y.N. は11.34%、T.Y. は 26.25%、T.T. は 16.17% と全てのセッターにおいてオープン攻撃の割合が増加しており、他の攻撃の割合が減少していた。
評価の高いY.N. はラリー中のオープン攻撃の増加率が最も低く、SR からの攻撃に近い形のトスワークを行っていたが、評価の低いT.Y. はオープン攻撃の増加率が最も高く、さらに全体に占めるその割合が50%を越えていた。
Y.N. はラリー中の攻撃においてもオープン攻撃だけに頼ることのない、勝つために必要なトスワークを行っており、これに対して T.Y. はラリー中の攻撃におけるオープントスの割合が非常に高く、それが優れたセッターとの能力の差となって表れていると考えられる。
このことから、セッターのトスワークにその能力の差が表れるのは、事前に攻撃を計画できるサーブレシーブからの攻撃ではなく、状況への対応が要求されるラリー中の攻撃であることが明らかになった。
③トスの結果について
セッターの評価に関連して全体のトスの結果(TOTAL)に差があり、検定の結果有意差も認められたことから、セッターの能力の差がゲームにおけるトスの結果に表れることが明らかになった。また、セッターとしての評価の高いY.N.と評価の低いT.Y.のトスの結果を比較した場合、トスを上げる際の移動が大きくなるに連れてその違いが大きくなる傾向が見られた。
このことから、セッターのトスの結果に能力の差が現れるのは、定位置でトスを上げる場合ではなく、移動して行う場合もしくは2段トスを行う場合であることが明らかになった。
出典
バレーボールゲームにおけるセッターに関する研究.
箕輪憲吾, & 吉田敏明. (2001). バレーボール研究第3巻第1号p8-14
用いられた論文はこちらです。